この記事はSymbolic Modelling Emergent Change though Metaphor and Clean Language
by James Lawley and Penny Tompkinsの翻訳です。
英語原文は下記よりダウンロードしてご覧ください。
このモデルの重要性
私たちが、NLPにデイビッド・グローブの研究を紹介する以前、メタファーは大抵、ミルトン・エリクソン方式の物語(ストーリー)で語られていました。自源性(autogenic)のメタファー、つまり、<クライアント自らが生み出したメタファー>は、ほとんど使用されてはいませんでした。私たちは、ひょんなことからデイビッド・グローブと出会い、そして、彼が、NLPの存在意義(the raison d’etre of NLP)である「「主観的経験の構造を研究する」新しい方法を発明したことに気づいたのです。
デイビッド・グローブは、クリーンランゲージという、<メタファーと「経験のシンボリックな領域」に取り組むために考案された質問モデル>でよく知られています。(1)
1995年、私たちは彼の発明をモデリング(体系化)することを決めました。それが、私たちの著作『Metaphors in Mind: Transformation through Symbolic Modelling(心の中のメタファー:シンボリック・モデリングを通じた変容/日本語未翻訳)』の執筆につながりました。私たちは、グローブの発想の多くを取り入れつつ、また同時に、認知言語学、自己組織システム理論、進化力学における最新の研究も参考にしました。私たちが目指したのは、心理療法だけではなく、教育やマネージメント、調査研究などの幅広い文脈に応用できるモデルを生み出すことでした。 最近、私たちが自分たちのモデルを見直していた時に、このプロセスには「シンボリック・モデリング・ライト(Symbolic Modelling Lite)」という中心核があることに気づきました。それを今回ここで、初めてご紹介します。(2)
ライト・バージョンを習得することで、クリーンランゲージを使って<メタファーを明らかにし(見極め)、発展させ、探究し、進化させるのをファシリテーションする>ことができます。もしもあなたが、さらに上を目指すのであれば、シンボルをモデリングする人(シンボリック・モデラー)としての技術を身につける必要があります。少し時間はかかるかもしれません。
(1)
クリーンランゲージより認知度は下がりますが、その他のデイビッド・グローブの発明には、クリーン・スペース、エマージェント・ナレッジがあります。グローブ式プロセスの全てに共通するのは、<クリーンに>ワークに取り組むという考えです。
(2)
「ライト(Lite)」は、低カロリー食品のことではなく、エントリーユーザー向けのコンピューター・ソフトウェアのことを指します。このソフトウェアには完全な機能が付属しますが、追加オプションの機能については、アップグレードと、より熟練したオペレーターが必要です。
困難な世界の中でシンボリック・モデリングを使用する
誰もが、四六時中、メタファーを使っています。…1分間に6回もの頻繁さで!ほとんどのメタファーは意識されることなく構築され、語られ、受け取られることには驚きます。30年以上に及ぶ研究によって、<私たちはメタファーを使って話したり、ジェスチャーしたりするだけではなく、自分のメタファーを基に思考し行動している>ことが示されています。あなたのクライアントや仲間、顧客に友人、そして、あなたの敵までも、全ての人がメタファーを使っています。…時折ではなく、ほとんどの時間。
メタファーは創造性の源泉ですが、また、思考を特定、制限もします。そして、そのために非生産的で自己破壊的な行動パターンが持続することもあります。他者のメタファー的な言葉やジェスチャーを傾聴し観察する術を知ることで、その人の内的世界の仕組みに対する洞察がもたらされます。そしてメタファーの世界のプロセスや構造をモデリングするのに、クリーンランゲージはおあつらえ向きなのです。
シンボリック・モデリングは、小学校や、NASA宇宙センター、最高警備の刑務所など、さまざまな場所で、変化や創造、教育のプロセスに利用されてきました。ビジネスや人生、スポーツのコーチングにおいても、その価値を認められつつあります。
シンボリック・モデリングは、日常の問題に取組むのにも非常に高い効果を発揮しますが、特に以下のような場合に適しています。
人生の重大事…例)目的意識を見出す。
何かがおかしいという感覚…例)何かが間違っている、怖い、安全ではない、欠けている。
アイデンティと精神的なレベルの話。
内的な葛藤。
手に負えないダブル・バインドのパターン。
精神的トラウマ。
シンボリック・モデリングは主に自己成長のファシリテーションに使用されてきましたが、以下のようなスケールの大きな環境問題に関わるプロジェクトなどにも利用されてきました。
ヨーロッパ全体の持続的な土地計画の戦略構築。
オランダやスコットランドの鉱山跡地の地熱を利用した温泉。
オランダでは、その姿勢を「海を守る」から「水と暮らす」「水の都」へと見直し海面上昇に対応。
これらのプロジェクトで使用された「The Modelling Shared Reality(共有している現実のモデリング)」のプロセスは、関係者の現在の集団的な経験の写し絵(snapshot)を提供し、通常は意思決定に携わらない人々が持つ共同体の声を提供します。…それゆえに、メタファーを行動に変えることができるのです。
シンボリック・モデリングとは
全ての変化のプロセスには、媒介(a medium)、方法論(a method)、手段(a means)が必要です。シンボリック・モデリングにおいてそれにあたるのは、メタファー、モデリング、クリーンランゲージです。以下の3つの方法でこれらを一緒に使用することができます。
成功戦略(successful strategies)と最高の状態(states of excellence)をモデリングする。
変化をファシリテーションする。
個人やグループが新しいメタファーを作り出すのをファシリテーションする(図1参照)。
シンボリック・モデリングは、人間の普遍性を見つけようとする大半の心理学とは異なり、個人個人の世界地図特有の仕組み(organaization)を追求します。例えば、クライアントが「人生の<分かれ道にいる>」と言ったとしましょう。これはごくありふれたメタファーですが、クリーンランゲージの質問をいくつか問いかけてみれば、その<分かれ道>は個性的なものだということが明らかになります。
その<分かれ道>には、線路があり、列車が近づいています。線路の片側には不毛の地(barren land)があり、もう片側には草木が生い茂った自然(lush nature)があります。また、クライアントの胸には、「線路を飛び越えたい」という願いがありますが、足が動きません。というのも、お腹の中で、責任感を持っている「手」が、「足」を引き止めているからです。アリストテレスいわく、「個人についての科学は存在しない」であるように、個性的(個人特有/idiosyncratic)であることが重要なのです。
メタファー…媒介(The Medium)
ジョージ・レイコフとマーク・ジョンソンが観察したように、「メタファー(隠喩)の本質は、ある種の事柄を別の観点から理解し経験すること」です。研究では、私たちが使う「メタファー(隠喩)や直喩の大多数は、体と物質界の仕組みへの理解から生じていること」が示されています。
クライアントが「水の外にいる魚のような気分だ(*)」と言ったら、私たちには、クライアントがどのように自分の状況を認識しているかを、すぐに把握することができます。私たちはすでに「魚」、「の外」、「水」の性質を知っており、身体的/物理的な経験を抽象的な精神領域へ持ち込むことができるからです。
(*)A fish out of water: 場違いな気分、居心地が悪いなどを意味する慣用句。
メタファーは、実体のないものを実体化し、関係性やパターンを具現化して、経験の本質を捉えます。メタファーの利点には以下のようなさまざまなものがあります。
クライアントが取り組める内容に制限がない。(content-free)
プロセスや構造レベルとのワークに取り組みやすくなる。
同時に複数の階層(レベル)に作用する。
まるで贈り物を貰い続けるようなもの。セッション中のプロセスは、数日、数週間、時には数年に渡って展開し続ける。良いリソースのメタファーは一生ものになる。
モデリング…方法論(The Method)
シンボリック・モデリングは、その他のモデリング形式とは3つの点で異なります。最初の2つは明白な違いです。
人々のメタファーの構成(organization)をモデリングする。
モデリングにクリーンランゲージを使用する。
3つ目の違いは、より微妙な違いです。
一番の目的は、クライアントがセルフ・モデリングすること。
シンボリック・モデリングの焦点全体は、<クライアントの>視点からのメタファー的な世界モデルの探究です。その探求は、クライアント本人によって、<クライアントの>知覚時間・知覚空間の中で行われ、<クライアントが>使用する言葉や非言語表現を使用します。
また、型通りの対話ではなく、ファシリテーター - クライアント - クライアントのメタファー・ランドスケープの間には、デイビッド・グローブが「トライアログ(三者対話)」と呼んだものが存在します。
メタファー・ランドスケープは、クライアントの内部や周囲に創発する(現れる)四次元的で、サイコアクティブ(*)な世界です。ファシリテーターは、自分の知覚空間を傍に避けて、クライアントの物理的空間を占有するのが、クライアントのメタファー・ランドスケープ一つのみになるようにします。
(*)訳註 サイコアクティブ:精神的に活性化した状態
4つの基本的なモデリング・プロセス(過程)
何百ものクリーンランゲージのセッションを研究した後、私たちは、経験を積んだファシリテーターはわずか4つのモデリングのプロセスを、最大限に活用しているという結論に達しました。4つのプロセスは以下の通りです。明らかにする(見極める)・形を発展させる・時間を関連づける・空間を関連づける。
1. 明らかにする(見極める/特定する/identify)
– あるものが何であるかを確立・認識・区別するため。
– あるものに名前を付けてアイデンティティを与えるため。
– ある要素または特性/特徴を個別化するため。
– それぞれのレベルで、属性/特徴、シンボル、関係性、パターン、文脈など、異なる種類のものを明らかにするため。
2. 形を発展させる
– 明らかになったことを、より詳細に発展させる(elaborate)ため。
– その何かの本質がはっきりするように、そのものの特徴/属性を十分に明らかにするため。
– (シンボルの)知覚に命を吹き込むため。デジタル化される前の写真(アナログ写真)が、現像液から登場するような感じ。
3. 時間を関連づける
– 出来事の順序(前―最中―後)を明らかにするため。
– 原因・結果・偶発的な出来事・前提条件・起源・期待するものなどの、一時的な関係性を明らかにするため。
4. 空間を関連づける
– 分離している物事、空間、知覚、フレーム、文脈などの間にある関係性を明らかにするため。
この4つのモデリング・プロセスはあくまで原則です。なぜなら、このプロセスは、非常に幅広く応用できるからです。私たちはこのプロセスを、リソース、望んでいる結果、問題的な状況、変化、優秀さの構造、葛藤、共同のメタファー、その他諸々を扱うのに活用してきました。図2は、この4つのプロセスが互いに関連することを示しています。
「ファシリテーターが、クライアントの変化を意図しないモデリング」を基にしたプロセスが、意義深く長期的に持続する発展を生み出すとは、最初は奇妙に思えるかもしれませんが、これが、自己組織化システム(self-organizing system)の神秘です。
メタファーが明らかになり、発展し、探究されるにつれて、クライアントのシステムは、システムそのものから学習します。ランドスケープが徐々に発展していくにつれ、クライアントは自分を知覚する新しい方法と、自分もその一部であるより大きなシステムを発見します。そうする中で、クライアントの日常的な思考、感情や振る舞いが同じように変化していくのです。
クリーンランゲージ…手段 (The Medium)
クリーンランゲージの3つの機能(認知する・方向づける・クエストに送る)と、4つの要素(シンタックス/構文・声質・ジェスチャー・クリーンな質問)は、すでに十分に文書化されており、それらはウェブ上で無料公開されています。というわけで、ここではその説明を省略します。
明確にしておくと、クリーンランゲージは、影響を与え、方向づけします。…そうでなければ、役に立ちません。しかしながら、他の言葉の使い方とは違い、クリーンランゲージは、「クリーン(混ざり物がないこと/clean)」です。というのも、クリーンランゲージは、以下のようであるからです。
クライアントの語彙そのものを源泉とする。
クライアントのメタファーが持つ論理(ロジック)によって成り立つ。
こちらから導入するのは、普遍的なメタファーである時間、空間、形、知覚者(perceiver)のみ。
クリーンランゲージには、9つの基本的な質問があります。そして、それが、シンボリック・モデリングの心臓部を形成しています。というのも、それらの質問を非常に頻繁に問いかけるからです。私たちは長年に渡り、いく通りもの質問の組み立てを考案しました。以下は、4つの基本的なモデリング・プロセスに従って、質問を並べたものです。
1. 明らかにする(見極める/Identify)質問
そして、[あなた/X]は 何が起きれば好いのでしょう? And what would [you/X] like to have happen?
そして、その[…]は何のよう?
そして、その[…]は何に似ていますか?
And that’s […] like what?
2. 形を発展させる質問
そして、その[…]は、どんな/どのような[…]ですか?
And what kind of […] is that […]?
そして、(その)[…]について、他に何かありますか?
And is there anything else about (that)[…]?
そして、[…]は、どこ/どのあたりにありますか?
And where/whereabouts is […]?
3.(出来事と出来事の間の)時間を関連づける質問
そして、それから何が起きますか?/そして、その後、何が起きますか?/そうすると、何が起きますか?
And then what happens?
そして、次に何が起きますか?
And what happens next?
そして、[出来事]の直前には何が起きますか?
And what happens just before [event]?
4. (知覚と知覚の間、または知覚とその内側の)空間を関連づける:
そして、[X]の時、[Y]に何が起きますか? And when/as [X], what happens to [Y]?
そして、[X]と[Y]の間に関係はありますか?
And is there a relationship between [X] and [Y]?
[…] =クライアントが使った通りの言葉やフレーズ
(2)に続く
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