「私たちは、言葉にできることよりもっと多くのことを知っている」 M.Polanyi
この記事は、Clean Language Without Words(Penny Tompkins and James Lawley)を翻訳したものです。
私たちは、何を、どのように言うかを通して、コミュニケーションしています。しかしまた、私たちは、体を動かして行うことや、(ため息や咳、舌打ちなどの)非言語的な音声を通してもコミュニケーションしています。非言語的なコミュニケーションは、普遍的で自然なものであり、私たちが「関わらないでは済まない」、ほとんど意識されないプロセスです。
エドワード・ホールは、次のように気づきました。
人間は、言葉を使わずにお互いに「会話」するだけではなく、そこには、まだ探索されておらず、未検証でありながら、非常に当たり前の、行動の全宇宙が存在するのです。それは、意識の外で、言葉と並行して機能しているのです。(参考文献1)
そして、デイビッド・グローブは、さらにこう続けます。
すべてのジェスチャー、特に強迫観念的なジェスチャーやチック症状、おかしな独特の動きには、その行動に関わる全ての歴史がコード化(エンコード/ 符号化 / encoded)されています。 その人の体全ての細胞が、その人の生物学的な歴史全てをその中に含んでいるのと全く同じように、そこにはその人の心理的な歴史全てが含まれています。(参考文献2)
クライアントが使うすべての言葉やフレーズに目的や意味、さまざまな関係性が存在するように、すべての非言語的な振る舞いは、尽きることのない莫大な知識の源泉につながっています。
シンボリック・モデリングでは、クライアントによって反復的に繰り返される非言語的コミュニケーションを、クライアントが反復的に繰り返す(大抵は無意識な)パターンを指し示すポインター、またはパターンの出どころ(ソース)と考えます。
私たちは、どのような種類の情報を非言語にコード化(エンコード)しているのでしょうか。
私たちは、よりはっきりとした運動感覚的な体験(触覚、感覚、感情)や、自己受容プロセス(身体の位置、動き、バランス)だけではなく、様々なものを、非言語を使ってコード化しています。 例としてあげられるのは、以下のようなものです。
知覚空間。
言語以前、概念以前、特異な知識。
トラウマ的な出来事や記憶喪失の記憶。
メタ・コメント(自分の言葉や行動に対する反応)。
家族の言い伝え、系譜的な特徴、文化的なコード。
精神的なつながりや人生の目的。
もしかすると、イサドラ・ダンカンが「もし言葉にできるなら、私は踊る必要はなかったと思うわ!」という言葉を発した時、彼女は自分が語れる以上のことを知っていたのかもしれません。
クリーン・ランゲージの非言語的側面
Rapport (雑誌名)の中で、私たちは、クリーン・ランゲージの言語的コミュニケーションに関連する側面を探りました。この記事では、あなたが自分の声と体を用い、クライアントの3つの非言語的なコミュニケーション ー(1)知覚空間、(2)メタファーとしての身体、(3)非言語的な音 ー を尊重し、活用する方法を解説します。
1. 知覚空間
他の記事(『Rapport』第36号、第38号、第39号)で私たちは、言語にいかに空間のメタファーが浸透しているか、また、空間のメタファーが、いかに経験の普遍的で基本的な要素であるかを説明しました(参考文献3)。
私たちは「心理的空間(心の空間/mind-space)」を持ちます。そして、その空間は、私たちが知覚を「見て」「聞いて」「感じて」「演じる」ための「劇場」のような役割を果たしています。
この心理的空間の形状は、私たちが空間的なメタファーを使うことによって、はっきりします(参考文献4)。さらに、私たちの身体がどのようにして空間の中での適応を学んだかは、私たちがどのように世界感覚を理解し、その中での自分の位置を理解する本質と言えます。
別の言い方をするならば、認知とは身体的な経験なのです(参考文献5)。
心身の空間に象徴的(シンボリック)な内容が含まれている時に、私たちはそれを「メタファー・ランドスケープ」と呼びます。クライアントは、自分の周りと自分の内側に知覚空間を持っていると考えられます。クライアントの身体は、シンボルがどこにあるのか、シンボルがどの方向に向かって動いているのか、そしてシンボル同士がどのように相互作用するのかを示しています。クライアントと「メタファー・ランドスケープ」との関係性が、クライアントの身体をその知覚的な劇場の中で踊るように仕向けるのです。
チャンスがあると、クライアントは無意識のうちに、窓、ドア、鏡、影などが自分のメタファー・ランドスケープのシンボルに対応するように、物理的な環境に合わせて自分の身の置き場を決めます。クライアントに、「部屋の中のどこに座りたいか」、また、「私(ファシリテーター)にどこに座ってほしいか」選んでもらうように問いかければ、クライアントは自分の知覚的・物理的空間を調整します。そして、クライアント自身が、最も快適で安全だと感じる場所に身を置きます。
デイビッド・グローブが言うように、「あなたが空間を十分に尊重すれば、空間はあなたのセラピスト仲間になります。」
クライアントの知覚空間に合わせる
あなたが、クライアントのメタファー・ランドスケープに注意を向け続けたいと思うなら、あなた自身の空間ではなく、クライアントの知覚空間に合わせて、空間に目印をつけることが重要です。
ですから、クライアントがどのように、シンボルの位置をクライアント自身の体を使って指し示しているかに気づくことが重要です。そうすれば、まるでクライアントが指差したその場所にシンボルが存在するかのように、(シンボルに)言及することができます。クライアントがあなたの手のジェスチャー、目線、頭の向きを追いかけ、クライアントは、シンボルの正確な位置に導かれるはずです。これは、あなたの動きが<クライアントの>知覚空間と一致していることを意味します。 以下の例のように。
クライアント:怖いんです。
セラピスト :そして、怖い。そして、怖い時、その怖いはどこ(ですか)?
クライアント:(自分の右下の方を指さす)
セラピスト :そして、怖い(クライアントの右下を指さす)時、(同じ場所を指差しながら)、どのあたり(ですか)?
クライアント:下の方。(右足を指さす)
セラピスト :そして、下の方(指さされた右足を見る)。そして、下の方の時、下の方のどのあたり(ですか)?
クライアント:6インチくらい離れたところ。
セラピスト :そして、6インチくらい離れたところ。そして、恐怖が6インチくらい離れたところにある時、その恐怖は何のよう?
クライアント:まるで断崖絶壁に立っているような気分。
あなたの言葉を「クリーン」に保つためには、クライアントが行動を言葉に変換するまでは、クライアントの行動に非言語で対応する方がいいでしょう。 そうすることで、デイビッド(グローブ)が時々言うように、シンボルが、クライアント自身の「知覚的不動産」である区画の権利を主張するのを勇気づけます。そして、そのようにして、クライアントの空間が「サイコアクティブ」になるのです。
視線
デイビッド・グローブの臨床研究によれば、目が見ている方向や視線の角度、目の焦点は、記憶や象徴的(シンボリック)な表現の中で経験した知覚的な視点と、相関関係にあることが多いそうです。 クライアントが見ている場所や、視線の焦点に注目することで、クライアントのメタファー・ランドスケープに存在しているシンボルの位置情報を得ることができます。
視線はどのように作用するのでしょうか?
想像してみてください。
父親に殴られたばかりの子供が、父親の顔を見上げて、探したところで見つからない愛のしるしを探しているところを。
この出来事は、<状態に依存した記憶 >の一部として <刷り込まれた>ままになるかもしれません。(参考文献7)
それから、その後、愛されていないという同様の感情が、同じ姿勢と上向きの視線を呼び起こすかもしれません。あるいは、同じ角度と焦点距離で見上げると、似たようなな感情や記憶にアクセスされるかもしれません。時を重ねると、「視線」はそのクライアントの症候性行動における習慣的な箇所のエビデンス(証拠)とみなされるようになります。(参考文献8)
目線は、クライアントが(窓の外を見つめるなど)ある特定の方向に目線を合わせたり、(鏡、本、ドアの取っ手などの)ある特定の物を見たり、(カーペットのシミ、壁紙のモチーフ、影などの)パターンや形に目が釘付けになっていたり、または、どこにも焦点を合わせずに空間を眺めたりしている時、最も簡単に観察できます。
隅っこをちらっとみたり、肩越しの一瞬の視線も、そのほとんどは、気まぐれで意味のない行為ではなく、クライアントの象徴的な世界の形に対する反応であると考えられます。
クライアントの視線がシンボルの位置を指し示すのと同じように、クライアントは体の向きや視界の方向を、特定の空間が見えないように調整することがあります。
例えば、あるクライアントがコンサルティングルームに入り、ソファの一番右端に座ったことがありました。彼は足を組み、右に傾いて座りました。彼の肩も右に傾いていました。セッションの間ほとんど、彼は左手を左目の側に置いていました。それは、まるで馬の目隠しのようでした。 彼の手が一瞬離れ、ちらっと左を眺めた時、彼は(私達から)「そして、そこへ行くという時、あなたはどこに向かっているの?(クライアントの視線に目をやりながら)」と問いかけられたのです。彼は数秒間、左を向いていました。そして、それから、心の奥底から出た大きな嗚咽をあげました。
彼は息を整えた後、言いました。
「ああ、神様、あそこに何かあるんです(左を見る)、だけど、僕にはそれが何なのかわからないんです。僕は、もう長い間、あそこを見たことがない。もしそこを見てしまったら、僕は囚われの身になるし、あそこからの眺めは何かに取り憑かれたような眺めだろうと思います。」
その後、そのクライアントは、会議中や、道を歩いているとき、家にいるときなど、自分ができる限り、その時一緒にいる人を右側に配置していることに気づきました。 クライアントがどこに座るかは、その人の支配的な視線によって決まると言っても過言ではありません。それを調べることで、普段は意識できないような情報を得ることができます。
メタファー・ランドスケープの身体化
(物質化/physicalizing)
クライアントの中には、自分のメタファー・ランドスケープとの関係性を座って語るより、あたりを動き回りながら探求するのを好む人もいます。
部屋の中を歩き回ったり、シンボルのある場所を占領してみたり、ある場面の要素を演じてみたりする必要があるのかもしれません。
「空間を身体化(物質化)する」ことで、クライアントは情報にアクセスし、さらなる洞察を得て、自分の知覚空間の構造に対するより有益な理解を引き出すことができます。 デイビッド・グローブは、コンサルティングルームの空間を活用することに付け加え、クライアントにとって象徴的な意義や重要性を持つ物理的な環境を見つけるよう、クライアントに勧めています。
その結果、彼は丘の上や湖の上でセッションを行いました。昼夜を問わずに、クライアントの象徴的な地形と物理的な地形を同調させるために。そして、そこでは常にクリーンランゲージが使われていました。どんなにへんぴな環境(周辺状況)の中でも、です。
(2)に続く。
©︎Penny Tompkins and James Lawley
Translated by Yukari Ishii
Comments