Context makes Clean clean (James Lawley,2023)の翻訳です。
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8.文脈と条件のモデリング
基本の質問「以外の」質問を問いかけるのが適切な状況、つまりどのような状況下で問いかければ、その質問はクリーンなのでしょうか?具体的には、指標として、クライアントがどんな示唆や兆候を示すときに「文脈的にクリーンな質問」の問いかけを選択肢として考えることができるのでしょうか?ここは重要なポイントです。
また、その条件が存在するという理由だけで、文脈的にクリーンな質問を問いかけなければならないというものでもありません。あらゆる質問は、その場に値する必要があります。ファシリテーターとして、クライアントが次に注意を向けるのに最も値する場所を決める時には、クライアントのメタファー・ランドスケープと、クライアントが望んでいるアウトカムを考慮する必要があります。
Big5
では、私とペニーが最もよく使用する用途限定の質問Big5の話から始めましょう。表1は、Big5の質問の使用を検討する一般的な条件をまとめたものです。質問それぞれは、クライアントが自身の経験(*)の特定の特徴に注意を向けるように誘います。
*経験:形、意図、必要条件、源泉、知っていること。
表にあるような条件の存在に気づくには、ファシリテーターは、ただ傾聴したりクライアントの言葉を繰り返したりする以上のことを必要とします。ファシリテーターがする必要があるのは、「クライアントが、どのように自分の経験を意味づけているか」に関連して示される示唆/兆候(indicator)の追跡です。それらは通常、クライアントの描写の背後に存在しています。
さて、ここからは、コーチングやセラピーで、「文脈的にクリーンな質問Big5」を問いかけることができる場合に「クライアントが共通して示す兆候(indicator)」について説明します。
クリーンランゲージの質問の主な意図/目的は、以下2つであることを覚えておいてください。
クリーンランゲージの質問は、プロセスのため、もしくは、クライアントが問いかけられた質問を理解するために、心と体を使って「行う(do)」ことを求める。
クリーンランゲージの質問は、クライアントの内側にある世界の「どこか」や「何か」に注意を向けるように、クライアントを招き誘う。つまり、クライアントを、その人のメタファー・ランドスケープの中にある場所や時間(枠)に招待する。
形 Form
人は、自分の体験について、それがまるで「物(thing)」であるかのように語ることがよくあります。雲や感情は物ではありません。しかし、誰かが「空を雲が横切った」とか「怒りを爆発させる」と言う時、その人は、雲や感情を物のような扱いで話しています。物の定義のひとつは、「空間の一定範囲を占有すること」です。したがって、物には大きさと形、もしくは、そのどちらかがあるということになります。
(シンボリック・モデリングでは、色や素材など、その他の‘サブ・モダリティ’*については質問しません。その理由は、(1)大きさや形以外のサブ・モダリティは、全ての「物」にある固有の性質ではない、(2)クライアントの内側にあるランドスケープに、こちらから特徴を導入したくないから、の2点です。)
大きさや形を問いかける質問は、主として、「形がない物っぽいシンボル」により注意を向けるようクライアントを招くために使用されます。クライアントが、そのシンボルが占有している知覚空間や、そのシンボルに輪郭があるかどうかに注目できるようにするためです。この質問の副産物として、クライアントがメタファーを使用して自分の体験を述べるようになることがよくあります。以下はその例です。 (例は、セクション5と同じセッションからです。)
22 | C | ちょっとした衝動があります[胸を触る]。 ここに、ちょっとした衝動がある。 |
23 | P | そして その衝動に大きさや形はありますか? (そして その衝動には 大きさや形がありますか?) |
25 | C | あら。まるで手持ち花火のきらめきみたい。[笑う] |
意図 Intention
メタファー・ランドスケープのシンボルは、能動的な役割も受動的な役割も果たすことができます。受動的なシンボルは、例えば、何もしようとはしない何が起きても反応しない岩かもしれません。この場合、岩はただ、岩があるようにあるだけです。
ですが、もしも、クライアントが「その岩は、邪魔な岩なんです」と口にしたなら、「その岩には、邪魔する働きがある」とクライアントは示唆しています。もしくは、「その岩は、寂しい岩です」なら、それは、岩が経験を持っていて、ランドスケープの他のシンボルとも関係がありうることを暗示しています。
クライアントの発言にこのような示唆/兆候がある時に、ファシリテーターには、クライアントがランドスケープおけるシンボルの役割を何か発見することを期待し、「そして その岩は 何が起きてくれたら好いのでしょう?」と問いかける許可が与えられます。
以下は、先程のセッション例の続きからの抜粋です。 クライアントは、「ブーツ」に「手持ち花火」の「きらめき」が「踏み潰される」前の「きらめき」について語っています。
*訳註:話の流れについては、元の逐語録を参照してください。
30 | C | [大きく息を吐く] 喜びいっぱいで、活気がありました。 |
31 | P | そして、きらめきが喜びいっぱいで活気があったとき、 喜びいっぱいで活気があった は 何のようだったのでしょう? |
32 | C | 子供の愛のよう。子供の遊びのよう。 [大きく息を吐く] 愛のよう。ダンスのよう。休日のよう。お祭り(celebration)みたい。 [長い沈黙の間に、複数回、大きく息を吐く] |
33 | P | そして、そのきらめきは、子供の遊びのよう。ダンスのよう。休日のよう。 そして、そのきらめきは、今、何が起きればいいのでしょう? |
34 | C | [大きく息を吐く]彼女は、生き続けたいんです。 彼女は、生きたい。[涙目になる] |
必要条件 Necessary conditions
クライアントが望んでいるアウトカムを述べた後、セッションの「ある段階 (at some point)」で、「そして [望んでいるアウトカム]のために起きる必要があることは/が (他に)何かありますか?」と問いかけると有益です。
この質問は、クライアントに何かをするように求めてはいません。
むしろ、「望んでいるアウトカム(結果)が、まだ、現実の結果とはなっていない」ことを踏まえ、この質問は、結果が生まれる前に、「何か」が起きる必要があるかどうかを問いかけています。同様に、もし、クライアントが、「自分の望んでいるアウトカムが起きるには、ある条件や行動が必要だ」と述べたら、その条件に対しても同じ質問を問いかけることができます。
これを、ここまで例に使用してきたセッションとはまた別のセッションを使用して説明します。
セッションの終盤で、クライアントがこう言いました。
「必要性を意識する必要はありません。私はただ意識する必要があるんです。完全に停止。」
私は、(その発言について)別の質問を2つして、それから、こう問いかけました。
「そして あなたがそのように意識するために 何か起きる必要はありますか?」
クライアントは言いました。
「すでにそういう風に意識しています。うん、私はすでに、そういう風に意識しているんです。」
クライアントのこの発言から、(必要条件を満たすために)何も起きる必要がないことが容易に推測できたため、私はセッション完了に向けたまとめに入りました。
上記の質問形式は、以前に用途限定の質問リストに掲載していた「そして 何が起きる必要がありますか?」よりもクリーンです。なぜならば、「何が?」バージョンは、何かが起きる必要があると暗示しているからです。…何も起きる必要がないかもしれない時にでも。
しかしながら、それでも、「何が起きる必要がありますか?」という形式の質問も、厳格な条件がある場合には、文脈的にクリーンな質問と言えるでしょう。つまり、「クライアントが必要性について述べている場合」、もしくは、「クライアントの論理に<何かが起きる必要がある>という強い前提が存在する場合」です。
この後の例は、再び「手持ち花火のきらめき」の抜粋の続きからです。この直前のクライアントの発言は、「彼女(きらめき)は生きたい。彼女は生きていたいんです」です。この発言が強く示唆しているのは、再び「きらめきに命をもたらす」には、何かが起きる必要があるということです。そのため、「きらめきが生きるために 何か起きる必要はありますか?」と問いかける必要はありません。
35 | J | 彼女は生きたい。そして、そのきらめきは生きたい。 そして、そのきらめきが生きるためには、何が起きる必要がありますか? |
36 | C | [黙る]多分、彼女が存在していることを認識すること。[大きく息を吐く] |
望んでいる結果(アウトカム)が生まれるために必要なことは1つ以上あることが多いことを考慮すると、この後、「そして [望んでいるアウトカム/必要条件]のために、他に何か起きる必要はありますか?」と続けても、普通は文脈的にクリーンだと考えられます。
私は、自分がここで推奨している形式では、追加質問が必要になる可能性があることを認めます。しかしながら、私の目標(aim)は、用途限定の質問に含まれるファシリテーターの推論を最低限にとどめて、最高水準のクリーンさを維持することです。
最近になるまで、私は、ほとんどの場合、「何が起きる必要がありますか?」バージョンを使用していました。 (そこに、厳格な条件が存在していたことを願います)…しかし、いつもそう問いかけていたわけではなかったことに気づいたのです。
また、私は、多くのファシリテーターが、クライアントが「何かが必要だ」と述べる前にも、クライアントの論理に「何かが必要だ」という前提がない場合にも、「何が」バージョンを問いかけるのを、これまでに目にしてきました。
同じような意味で、必要条件の質問は、<クライアント自身が「〜欲しい」、「〜したい」、「必要だ」と発言した結果(アウトカム)に対してのみ問いかけること>が極めて重要です。もし、それ以外の何かに問いかければ、この質問は、「押し付け」的、誘導的になりがちです。そしてその結果、文脈的にクリーンではない質問になりがちです。
源泉 Source
通常、物事や経験は、どこでもない場所から現れるのではなく、どこか別の場所から「やって来る」、「出てくる」と、知覚/認識されることが多いです。*
*著者註
これは通常そうだということであって、必ずしもそうだということではありません。また、必ず、事前に源泉があるということでもありません。
そのため、「そして […]は、どこから(やって)来ましたか?/(やって)来るのでしょう?」という問いかけで、特定のシンボル・行動・関係性の「源泉」を明らかにするようクライアントを誘います。クライアントが回答で答えることの多い源泉には、以下の四種類のようなものがあります。
「場所」 例:川の始まり
「原因」 例:洪水につながる大雨
「前所有者」 例:恩人
「起源」 例:受胎
この後の例は、一つ前の例(36)のすぐ後の逐語です。
37 | P | そして、そのような認識はどこからやって来ましたか? |
38 | C | 多分、見開いた両目から。今、私は、自分がそのブーツを恐れていたことを理解し始めています。私は怖かったんです。生きるのが怖かった。このきらめきを自分の中に抱いているのが怖かった。だって、きらめきが自分の中にあると、ブーツがやってきて、それを粉々に壊してしまうから。 |
この新しい気づきは、クライアントの何かが変化しようとしていることを示唆している可能性が高いです。
源泉を問う質問は、クライアントを刺激し、そこから思ってもみない連想が生まれることがあります。そして結果として、クライアントの注意がさまざまな時と場所へと行き着く可能性があります。また、クライアントの注意は、現在のランドスケープから離れて、今より以前にあるメタファー的な出来事や、子供時代の思い出、もしくは、惑星ゾーグにたどり着くこともあるでしょう。
また源泉を問いかけることにはマイナス面がある可能性もあります。なぜならば、ファシリテーターはクライアントが質問に答えるまでは、その人の注意がたどり着く場所を事前に知ることができません。もしかしたら、たどり着く場所が最重要な時空のこともあるかもしれませんが、逆に、現在のメタファー・ランドスケープにある重要な瞬間から注意を逸らすことになってしまう可能性もあります。
ですから、ファシリテーターには、クライアントの論理において「源泉を見つける課題にクライアントを送り出すのが、クライアントにとってメリットがある可能性が高いかどうか」を見極める必要があります。
知っていること Knowing
ことば/言語(language)は、抽象概念とあいまいな言葉(words)で体験を描写する能力を生み出します。これは、ことばの大きなメリットであると同時に、ことばは生きた体験から私たちを切り離すことができるということでもあります。
例えば、あるクライアントは、自分の生の体験を特定できないまま、「…まるで、自分がこの世に存在しているみたいに」という表現を使っていました。 「そして あなたはどのように/どうやって…を知りますか/わかりますか?」という用途限定の質問は、「世界の存在を認識するのに使用している経験や基準」についてよく考えるように、クライアントを誘い招きます。
ファシリテーター: そして、あなたが、穏やかさとバランスと共にこの世に存在するとき、あなたが存在することを、あなたはどのように(して)知りますか? クライアント: 私には、行動には結果が伴うという印象があります。そして、行動と結果が自分に見えると、自分の体が機能しているのを感じます。でも、今、(感じているような)機能ではないんです。だって、今、私の体は、壊れてカオス状態みたいで、たくさんの痛みも抱えているようだからです。
この後セッションは、さらに「自分の体が機能している」を展開しながら続きました。このセッションの抜粋のクライアントの答えが示しているように、人は通常、この質問に、より(自分の)感覚に基づいた表現や例を使って答える傾向があります。 この質問では、クライアントを「現在/今」に向かわせるのが基本形式ではありますが、過去や未来の体験についても問いかけることが可能です。
過去の例:
「そして あなたはどのように[体験]を知ったのでしょう?」
「そして あなたは どのようにして[体験]がわかったのでしょう?」
未来の例:
「そして [体験]の時(に) あなたはどうやって知るのでしょう?」
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